【卜部蘭】日本選手権800mと1500mで二冠の卜部蘭がコーチと描く、日本人女子初を実現させる東京オリンピックの舞台 / 加納由理さん

コーチになるまでと嫁置き去り事件

現役時代はコーチというキャリアは考えていなかったでしょう?って。現役引退後は陸上界に残るつもりはありませんでした。当時はメジャーリーグのエージェントになりたいと考えていたんです。アメリカで公認会計士、そして修士号をとろうとしてたのもそのためです。まだ現役中の2015年の夏、スポーツマネージメントを学ぶためにアメリカの大学院に行く準備をしていたころ、「NIKEでチームを作ろうとしているだけど、コーチをやってくれないか」という話が浮上しました。

たまたま齋藤雅英(早実→早稲田)という高校生を教えてて彼がインターハイに出たときに、NIKEのブースに挨拶に行きました。NIKEもぼくがどういう人間か、つまり「陸上界に残るつもりはない」ことを知ってただけに、インパクトがあったのでしょう。もしかして、横田は指導にも興味があるんじゃないかと「コーチになる気はある?」と打診されたのです。気乗りはしなかったけど、とりあえず「ある」とだけ伝えていたら、すぐにNIKEに呼ばれました。ちょうど北京世界陸上前。御嶽にアルベルト・サラザール(当時オレゴンプロジェクトヘッドコーチ)がいて、彼と会うことになりました。オレゴンプロジェクトの日本版を作ろうという構想がもちあがったのです。

アメリカのトップチームで実践を大学院でコーチングやマネージメントのような理論を学ぶことができると考えて引き受けることにしました。アメリカは2000年のシドニーオリンピックでは1つもとれなかった中距離メダルを2016年のリオオリンピックでは7つまで増やした。その背景を実践と理論を同時吸収しようというプランを思い描き、2016年の10月に引退。妻もオレゴンの大学院で学ぶことにして、家族でポートランドに拠点を移し、オレゴンでの生活がスタートしました。ところが拠点を移した直後。オレゴンでサラザールのもとで実践を学ぶという話が立ち消えとなってしまうのです。ぼくはいきなりオレゴンで無職になってしまいました。妻は大学院があるので、2年オレゴンにいつづける理由がありますが、すでに実業団も辞めていたぼくは無職の大学院生です。すでに勧誘していた卜部蘭と高橋ひなが2017年4月から入ることがきまっていたため、妻をポートランドにおいたまま、帰国することになりました。これは横田家では”嫁置き去り事件”として、いまだに妻にちくちく言われます。だから、2022年の世界陸上ユージーン(アメリカオレゴン州)は横田家にとっても、リベンジ。というかアナザースカイにしたいと密かに考えています。

そうそう、楠と出会ったのもそのころ。2017年3月までは無職で暇でしたから、当時、小森コーポレーションにいた楠康成がメキシコで合宿をするという話を聞いたので、そこに合流して楠の通訳をしながら、ぼくもコーチングを教わっていました。それが楠とのつきあいのはじまりです。オレゴンでそのまま学ぶことができていたら、楠はTwoLapsにはいないんです。人生って面白いものです。余談ですけど、2015年のインターハイ。ぼくが教えてた雅英は二位。勝ったのは田母神なんですよ。それもすごい縁ですよね。

(文章:EKIDEN News 西本武司)

【TwoLaps ハーフマラソン日本記録へのチャレンジ:10000mのためのハーフマラソン】~後編~

新谷がハーフマラソンで日本記録を出すまでのトレーニングと結果をすべて公開したところ、いくつかの質問をいただきました。せっかくの機会なので、ずっと僕らを追いかけてきてくれたEKIDEN Newsの西本さんに聞き手と執筆をお願いし、新谷と二人でドーハ世界陸上からの三ヶ月のトレーニングを振り返ってみました。素晴らしい記事に仕上がったのでぜひご覧ください。昨日、前編を公開させていただきました。

僕らの振り返りでは網羅できなかったのですが、日本記録更新を疑ってない人間がもう一人いました。 PMをしてくれた宇賀地です。僕らの取り組みや新谷の直前の走りをみて「出るっしょ」と言ってくれたことは新谷のなによりの自信になったと思います。おそらく僕の「大丈夫。でるっしょ」の1億倍の威力があったに違いありません(笑)それでは後編もお楽しみください。


前編はこちら

トレーニングの記録はこちら↓

トレーニング 1ヶ月目

トレーニング 2ヶ月目

トレーニング 3ヶ月目

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ーーあとは前提条件のコメントもよくみました。前提条件のハードルが高すぎる(笑)

横田
この前提条件をやりきれるメンタリティがヤベエ的なやつですね。

新谷
横田さんから「日本記録を狙うハーフだよ」と言われたのは、10月の終わりくらいだったんですよ。
それも会食の最中に。それまでは冬場の脚作りの一環としてハーフかなという認識でいたんです。ゲストランナーとして出場したMINATOシティーハーフマラソン(2019年12月1日開催)みたいな。横田さんは日本記録を狙うハーフという位置づけだったらしくて。お互いの認識が違うことを会食の場で知るという(笑)「横田さん、そんなに本気なんですか?」と。そこからしっかり意識して練習をやるようにしました。

ーーということは気持ちの面も含めると実質、3ヶ月弱で仕上げたわけですか。

新谷
でも、自分の性格も考えると十分な期間だと思いました。私は集中力を長期間持続するというのが苦手で。3ヶ月というのは準備期間としては十分でしたね。

横田
実際、トレーニング頻度は多いと思った?

新谷
いや。

横田
ね。(一同笑)

新谷
5000mや10000mと比べて、マラソンやハーフってゴール後、倒れるようなことってないじゃないですか。息が荒くなって倒れこむようなゴールじゃないでしょう?正直、ハーフの練習をしているときに、余裕度を感じながら練習がやれました。いつも練習でも力んじゃう私にとって、それはよかったです。5000mや10000mほどの苦しさがないから、ちょっとだけ、いいなと思いました(笑)

ーー新谷さんくらいになっても、5000mや10000mってきつくて嫌なんですか。

新谷
きついですよ。だからといって、トラックからハーフやマラソンに移行すればというのは嫌なんですよ。だって、2時間以上も走り続けたくないし。

ーー一同笑

新谷
そもそも陸上を始めたのが間違いでした!陸上に手を出してしまったのが。中学校のときに、素直に帰宅部に丸をしておけばよかったです。

ーー新谷さんの場合、陸上じゃなくても、どんなスポーツに手を出しても、ここまであがってきてるんでしょうけどね。横田さん、他にはどういう質問が来てましたか?

横田
1週間の距離を知りたいというのは多くコメントがありましたね。

新谷
私は日誌とかつけないんですけど、計算すると1週間で200km。1ヶ月で800km位、走ってます。
1日の距離を30kmに設定して。金曜日が午後オフだから、補強と15kmジョグをいれて。日曜日が補強がないので、20kmを時間を見つけて走ってます。そうして、1日あたり29~30kmでまとめてます。そうすると1週間で200kmになるんです。

ーーいま、さらっと言ってますけど、多くないですか。それ。

新谷
これは人それぞれだと思うんですけど、本当は1週間に200kmも走らなくても、実際走れる人はいると思うんです。この距離が絶対必要かと言われたらそうじゃない。私にはこの距離があってたのかなと。実際にハーフ走り終えた後も脚は大丈夫だったんで。余裕もありました。

横田
週間距離は200kmだけど、メリハリをつけてるなと思いますね。金曜日と日曜日は1日1回しか走らないとか。それはぼくではなく、ジョグの距離やペースは新谷が決めているんで。毎日、たらたら走るんじゃなくて、休むところを作っているところがポイントなのかな。ポイントが週に2回なんです。ぼくら的にはロングランとペースランはポイントに換算されないんで。

新谷
トラックでやる練習だけがポイント練習という認識なので。クロカンやトラックでのペース走はペースが速くても、遅くても、これはポイント練習にはカウントしません。400m、1000mのインターバルや5000m3本とかはポイント練習です。それ意外はジョグの延長線上なので、リラックスして走ります。

横田
そこはぼくも全く理解できないんですよ。ジョグで疲労を抜くとか理解できない人種なんで。貯まるじゃん。だったら、流しをしたほうが疲労は抜ける。

新谷
ただ、走るだけだったら、疲労は残りますよ。疲れるだけで。私のジョグはリズムどりなんです。リズムを作りことで、凝り固まった筋肉をほぐしていくイメージでいます。動かなかった日のほうが肩とかが凝っちゃうんですよ。だから、遅くても速くてもいいんです。自分にあったリズムでリラックスした状態で距離を走ることが大事で。練習というよりは身体をほぐしたいなという気持ちで走っているんで。今日も走らなきゃという強迫観念もないし、だからしんどくもない。

ーーはああ。新谷さんにとってジョグとはマッサージみたいなものなんですね。中でも大事にしているのは距離ではなく、リズムだと。だから週間の距離数やメニューが表に出ることは二人にとって問題ない。

新谷
そうです。そうです。ジョグのペースとかも質問されるんですけど、私、ペースなんてみてないです。15km、10km、8kmという自宅から走れる3つのコースを決めてて、その都度、選んでコースを走ります。そのコースを自分のリズムで走るので、時計はつけてますけど、ペースは意識しない。
毎日、コースが決まっていれば、「この日は調子が良かった、悪かったと判断ができる」その日の身体の調子を把握するバロメーターにもなります。同じコースを走っていれば、その確認ができるんです。確かに飽きるんですけど、いい練習になります。

ーー同じコースを走ることがいい指標になってるんですね。

新谷
午前中、しっかり脚を作った日は、午後はダウンみたいな感覚でゆっくり走ろうと思うんですけど、15km、20kmのジョグのときは後半をペース走のような感じ速いリズムで走ってます。

横田
聞いてると面白いんですよ。「長い距離があったほうがリズムをつかみやすい」って。

新谷
はい。

横田
新谷にはリズムに入る瞬間があるらしいんですよ。短い距離だと、速くそのリズムに入らないとジョグが終わってしまう。だから練習にならないと。20kmあれば、最初はリズムの乗れなくてもあとから乗せていけばいいという気持ちの余裕があっていいらしんですよ。それ全然わかんない。

ーー横田さん、すみません。ぼくそれわかります。

横田
えええええっー!全然わかんない。

ーーこれ、長距離走者あるあるなのかな。

新谷
そうです。そうです。

ーーなんか、うまくハマる瞬間があるんですよ。

新谷
早ければ3kmくらいでハマるんですけど、5km超えてもハマらないときがあるんです。20kmあれば、最初の10kmはキロ6やキロ5でいいや。ゆっくり身体を動かして、後半頑張ればいいやと思うから気持ち的に楽なんですよね。

ーーつまり、ハマってから、どれだけ長く走れるかがポイントですよね。

新谷
はい。

横田
ぼくは5歩で乗せなきゃいけないタイプなので。

一同笑

ーーそうかスタートして5歩か。

横田
スタートして5歩で乗せないと、気持ちが悪い。

ーーフルマラソンとかだと8kmまでに乗せたらなんとかなる。みたいなところがありますね。乗っからなかったら地獄です。

新谷
そうです。そうです!それが怖いからマラソンに手を出したくないんですよ。最初の5kmでハマらなかったら、10kmでハマらなかったら、残りの30km1時間30分走らなきゃいけないんですよ。絶対嫌だ。

横田
すみません。素人みたいな質問をしていいですか。そのリズムがハマるというのはランニングハイみたいなものとは違うんですか?

ーー違います。

新谷
全然、違いますよね!

ーーその日の体重とか、路面とか、気候とか、なんかすべての要素があわさって、「今日のフォームはこれ」みたいなものがあるんですよ。今日の接地はここか、今日の腕振りはこれだ。というのが、走ってる途中に出てくるんです。それさえ崩さなければ最後まで走りきれる。

横田
ぜんぜんわかんない。

新谷
そうです!ずっと行けるっていう感覚になったら、オッケーなんです。「このリズムいい。このリズムだったら行けるわ」というときがあるんですよ。

横田
ないです(きっぱり)

ーーフルマラソンだと5km以内にハマっておきたいんですよ。

横田
5km以上も走れないです。

新谷
そうそう。ある程度、練習を踏んでおけば、30km過ぎまではいけるんですよね。

ーー横田さんは、新谷さんのいう「ハマる感覚」がわかんなかったんですね。

横田
わかんないのもいいかなって。

新谷
わかんないときがありすぎて、引っ張ってもらってるときに、たまにリズムが合わないんですよ。

ーーぼくも「ハマる話」はこれまであまり理解してもらえなかったんですが、唯一、藤原新さんがどこかのインタビューで話していたのを読んだことがあります。

新谷
だから、ジョグの動きも毎日違うと思います。

横田
ぼくには同じに見えますけどね。

新谷
もちろんハマるタイミングもそうですし、疲労があって動きが悪いとか、いいときもあるんですけど、一日一日、ジョグの形は全然違うと思います。

ーー前に砧公園の外周を歩いているときに、新谷さんにすれっすれで抜かれたことがあるんですが、そのときの最短距離のコース取りで走ってて、あのときなどはまさに「ハマってる」ときだったんでしょうね。

横田
柏原くんが坂道を登るときに、「ここに足を置いたらいい」というのが見えるのと一緒でコースが見えてるんでしょう。

ーー事務所の前のバス停あたりの直線で。たぶん、ここ気持ちいいんだろうなと思ってたんです。

新谷
そうです!そうです!あそこスピードに乗りやすいです。一番スピードが乗りにくいのが、逆側にある橋のあたりです。

横田
それ、西本さん家の近くじゃない。

ーーそうですね。

新谷
あそこ通るたびに西本さんのことを思い出します。あそこで会うことが多かったですよね。

ーー横田さんのメニューを消化していく中で、二人の中で手応えみたいなものはあったんですか?

新谷
私はないです。最後まで不安しかなかったです。横田さんのメニューには疑いはなかったんですけど、3分10秒ペースでハーフマラソンを押し切れるかということに対する不安です。

横田
ぼくはずっと手応えはありましたよ。1週間毎に確実に成長していったのが、まずひとつ。ぼくの中では確信してました。ぼくには計算があって、新谷というのは、練習の1.5倍を本番で出してくるタイプなんですよ。練習での仕上がりに1.5倍の新谷変数を計算にいれたら本番では100%出るなと。本気で走っても1000m2分55~56秒くらいなのに、下りとはいえ、10kmの駅伝の最初の1kmを2分55秒で入っていく人ですからね。

一同笑

横田
そういうの見てきたんであんまり驚かない。練習自体も条件が悪い中、例えば、強風の中でのトラック5000m3本とか、相当メンタルきついと思うんですよ。通常、こういう最終調整ってロードでやることが多いんですけど、トラックでやったんですよ。ごまかせないじゃないですか。その中でも設定以上、ぼくはもっと遅くても良かったんだけど、新谷が5000m15分50秒じゃないと意味ないですっていうから、「おおう」と。疲労がそれなりにたまった状態で15分50秒で3本揃えるのは、かなりきつかったと思うんです。彼女はそうじゃないと意味がないって。

新谷
でも、寸前まで「やっぱやめたいです」って言ってたんです。アップ終わって、スタート5分前くらいに「やっぱ、今日、動かない気がするんで、やめたいです」って。東京に戻ってからやりたいですって言ってんですけどやりました。

横田
ぼくとマロン(ストレングスコーチ)が600mリレーして引っ張りました。

一同笑

ーー横田コーチが作ったスピード系のメニューもありながらも、マロンコーチと身体のシャーシを作り上げるという作業も同時進行ですすめていたわけですよね。

横田
マロンも自分がやりたいことと、新谷の身体の声を聞いてメニューを組み込んでくれたのは大きかったと思いますね。

ーードーハからストレングスの部分で足りないなと思ったのはどういうところでしょう。

横田
ドーハの前までは脚のどこかが痛い。ということが多かったんですよ。それまでは体幹、つまり腹筋や背筋といった部分しかできなかったんですが、ドーハ以降は股関節やお尻まわりを重点的にやるようになって、そこも含めて体幹をしっかり作り上げられたから、怪我をせずにトレーニングの継続につながったように思います。一番大きかったのは常に全力で走るのではなくて、余裕があるなかで自分をコントロールできると、スピードが出やすいということをわかったこと。

ーー新谷さんレベルをもってしても、そのことをようやく知ったと。

横田
スピードは全力を出さないと出ないと思っていたのがそれまでの新谷で。彼女だけじゃなく、ほとんどの人がそう思っているでしょう。そもそもスピード何よ?という話なんです。レースに必要なスピードは全力疾走じゃない。レースに必要なスピードをより出しやすくするために、つまり恋率的に出すためにトレーニングをすればよいので、必ずしも全力を出す必要はないわけです。新谷のレースペースは400mトラック74秒。それは一生懸命走らなくても出せるスピードです。さっきのハマるじゃないですけど、20本のなかで74秒でコントロールをするのが、今回のテーマとなってと思うんです。だから一本目からハマるんじゃなく、徐々にハマればいい。ハマったところから、脚を回していけばいいという感覚はわかるんです。今回、彼女はそれがわかったんだなと思います。

新谷
普段、5000mや10000mを走る上でのインターバルは400m70秒~72秒間で行います。ハーフマラソンになると、3分10秒。つまり74~76秒のペースになります。インターバルに望むにあたって気持ちが楽になりました。5000mとかだと、66秒から70秒を狙いますから、それに比べると74~76秒のペースはすごく楽。

ーーそれはちょっと笑いながら話すくらい楽なんですね。

横田
そこが理解できないんだよなあ。本数は倍ですから(笑)でも、振り返ってみると距離を走る必要はないんですよ。レースペースの練習をメインに据えて、その補助の練習をどうやって組むか。集団走や朝練があると、選手はしんどいと思うんです。前の日、ポイントで次の日の早朝から集団走とかになるとコンディションきついんです。うちのチームだと、朝はゆっくり起きて疲労を抜いて、それから朝練してご飯を食べるということでもいいので。そういう環境だからこそ、できたメニューかなと思いました。

ーー次はどういうステップを踏んでいくんですかね。本来は4月にスタンフォードで10000mで自己ベストを出す。つまり、2013年の自分超えをすることを狙ってましたが、そのレースも流れ、5月の日本選手権も流れてしまいました。

横田
そうですね。10000m仕様にしあげていたんですけど、もう一回、ハーフに立ち返ろうかなと考えてます。

ーーなるほど。ピークをあわせる時期がまた先になったから、もう一回、エンジンだけでなく、シャーシも作り変えて、排気量も車体も大きい車にバージョンアップするみたいなイメージですね。

横田
10000mのためのハーフマラソンという取り組みが新谷にもフィットしたわけで。もう一回、作り直すというのは時期としてもありでしょうね。

新谷
ハーフのための練習が良かったです。この試合がなくなった期間に10000mのためのハーフの練習を取り組んでみたいと思います。

ーー最後の質問です。ということは、ヒューストンハーフまでのトレーニングがベースとなるのはわかりましたが、それは強度が上がるものなんですか?それともさらに追加される要素があるんでしょうか?

横田
ぼくは別のものを足すと思います。

新谷
私は強度を上げたいな!

横田
こうやってふたりで作っていくんですよ。

新谷
完全に意気投合してるわけじゃないです!

横田
こういうやりとりはあのメニューからは読み取れないでしょう。
毎日、これなんですよ(笑)

                        文章・写真:西本武司

【TwoLaps ハーフマラソン日本記録へのチャレンジ:10000mのためのハーフマラソン】~前編~

新谷がハーフマラソンで日本記録を出すまでのトレーニングと結果をすべて公開したところ、いくつかの質問をいただきました。せっかくの機会なので、ずっと僕らを追いかけてきてくれたEKIDEN Newsの西本さんに聞き手と記事作成をお願いし、新谷と二人でドーハ世界陸上からの三ヶ月のトレーニングを振り返ってみました。素晴らしい記事に仕上がったのでぜひご覧ください。

トレーニングの記録はこちら↓

トレーニング 1ヶ月目

トレーニング 2ヶ月目

トレーニング 3ヶ月目

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ハーフマラソン日本記録更新までの3ヶ月間の新谷選手のメニューを横田コーチが発表したところ、これが、主に選手や指導者を中心に大きな反響がありました。ただ、トレーニングメニューを見て、「自分より速く走っていることはわかる」けど、そのメニューのポイントが読み取れない、ぼくのような人も大勢います。どうやら、選手たちが驚いていることと、一般人が驚いていることのニュアンスが違うように思うんです。

横田
トップ選手が細かくトレーニングメニューを公開するということは、なかなかないことなので、興味をもってくださる方も多かったですし、国内外から反響がありました。

ーー
第一生命の山下佐知子監督からは、すぐにツイッターで「サンキュー」とリプライが飛びました。

横田
ぼくもすぐに「あっ!有料です!」と返しましたが笑 ぼくとしてはもっといろんな人の感想も聞きたいです。とくに実業団や箱根駅伝を走る大学の指導者が、あのメニューをどうみたのか?おそらく、見ているけど、コメントはまだいただけてないんで。

前提として、ドーハの世界陸上までは新谷がTwoLapsに入ってきてからはずっと彼女がメニューを組んでいたんです。

ーーそれはブランクがあって、まだキロ4でジョグができなかったころから、つまり競技レベルに戻すまでの過程も新谷さんが自分でメニューを組んでいたんですか?

横田
そうです。ほぼすべて彼女が考えてました。世界陸上が終わり、ブランクを経て、世界陸上まではたどり着けたけど、東京オリンピックで世界のトップと戦うには「このままではダメだ」という結論になりました。そこで新たなチャレンジをしようということで、ぼくが、そこからメニューを作ることになったんです。

ーーそれは横田さんが作りたいといいはじめたのか?新谷さんが作ってくれ。とお願いしたのか?どちらなんでしょう。

新谷
それは横田さんからの提案でした。私も横田さんに任せようと思いました。

横田
いまのままの延長線ではなく、東京オリンピックに向けてやることを変えないといけない。だからお願いしますと。

新谷
世界陸上ドーハが終わったとき、「変えなきゃいけないな」ということは自分でも感じていました。だから、横田さんが「変えよう」という言葉が素直に受け入れることができたんです。

ーー世界陸上ドーハまで一気に仕上げていったように傍目には見えていた新谷さんがですが、ご自身の中ではトップフォーム、つまり最高のコンディションまでもっていけてたんでしょうか?

新谷
思い描いていた、いいイメージまで自分をもっていこうとしてたけど、そこまでもっていけなかったというのが結果ですね。

ーー世界陸上ドーハ10000mではスタートから、いい位置どりでレースをすすめました。4000mでケニア・エチオピア勢の6人が前に出て、集団を形成したとき、その集団についていこうと反応したのは、オランダのシファン・ハッサンと新谷さんの二人だけ。そのあたりの勝負勘はさすがだなと思ったのですが、ハッサンはそのまま押し切って金メダルをとりますが、新谷さんは押しきれなかった。昨シーズンを振り返ると、アジア選手権(2位)、日本選手権(3位)とレース序盤から先頭に出るも、そこで押しきれないレースが続いた。この3つのレースがポイントだったように思うんです。

新谷
この3試合は自分がポイントにしていたレース。重要視するあまりに、力みすぎていたところがあったんです。そこでハーフマラソンのような10000m以上の距離を踏むことによってリラックスして走ることを横田さんが提案してくれたのです。

横田
ハーフマラソンを走るというのは、ひとつの手段でしかなくて、日本記録更新するという目的はその先に距離を伸ばしていき競技を変えていくものではなく、ぼくらの共通認識としては「10000mのためにやるハーフ」。目的がしっかりしてたので、トレーニングメニューも、ハーフマラソンへの普通のアプローチとは少し違うものになってるかもしれません。同じハーフマラソンの距離を走る箱根駅伝のアプローチとも違ったのかなと思うんです。

ーーつまり、ハーフマラソンという距離へ対応するのではなく。

横田
10000mにつなげるために、ハーフマラソンをどう使うかしか考えていなかったんですよ。

ーーそのためには日本記録更新くらいのスピードも必要だったと。

横田
それくらいのモチベーションがないと取り組めないということのほうが正しいかな。たとえば、68分くらいを目標にしたら、彼女にとっては、魅力的なモチベーションはうまれない。「どんな種目でもいいから日本記録を作る。」ということが、10000mに取り組む上でも自信にもつながります。「10000mをやるためのハーフマラソン」「日本記録を更新する」そのふたつが、ぼくらの前提条件でしたね。そこから逆算してトレーニングメニューを作ることにしました。だから、アプローチや考え方も一般的なハーフマラソンへのトレーニングとは少し違うと思います。

ーーさらっと「日本記録を更新する」とおっしゃってますが、いきなりできるもんなんですかねえ。なんか、世陸10000mの翌日にお昼ごはんを食べたときに、なんかふたりとも、サバサバしてて、「なんか切り替え早えな」と思ったことを覚えてるんですが。

横田
笑 ハーフマラソンを走るチャンスは一回ですから。新谷は10000mの選手だから、ハーフマラソンも何度も走れるわけじゃない。次を狙うとしても、翌年まで持ち越しとなってしまいます。だから、一発でしとめるって大変なんですよ。当たり前ですけど。屋外のスポーツなんで、自分の状態だけではコントロールできない部分があるんで。

ーーコースや気温にも左右されますしね。

横田
ましてや海外のハーフマラソンですから、コースもYoutubeでしか見ることができないし。路面状態もよくわからないですし。

ーーこれが高速レースとして知られる丸亀ハーフのように、国内のレースなら下見もできるでしょうし、走った経験のある選手も多いから攻略法もあるんでしょうが。

横田
そういう条件の中で日本記録を出そうとするのは、ある意味、馬鹿げているんですけど、疑ってなかったです!(きっぱり)

新谷
私も疑ってなかったです(笑)そんな難しいことだとも思わなかったです。唯一、考え込んだのは、3分10秒、、、福士加代子さんのハーフマラソン日本記録を調べたら、1km=3分11秒ペースだったです。日本記録を出すためには3分10秒ペースでいかなくてはならない。「3分10かあ。10kmまでなら絶対大丈夫。問題はその後だな。」過去にハーフやフルマラソンを走ったとき、後半、脚がもたなかったことがありました。だから、そこに対する不安はあったけど、日本記録を目指すことや、横田さんのトレーニングメニューにびっくりすることは一切なかったです。むしろ、10000mを専門に走っているので、10000mの1キロ 3分5秒。400mトラック74秒のペースを崩さずに、「ベースは400mトラック74秒」という設定を元に横田さんが考えてくれました。そこだけは動かさないという基本方針があったから、楽だなとは思わなかったけど、距離を踏むことに対しても、何も不安に思うことはなかったです。

ーー距離を踏もうとするとスピードが落ちてしまうんじゃないか?という不安があったかと思ったのですが、「ベースは400mトラック74秒」という考え方がポイントだったんですね。

横田
そこは絶対崩さない。だから週に1度は400m74秒のインターバルをいれていたのは、そのためです。海外からも「なぜ、ハーフマラソンを走るのに、400mのインターバルが多いんですか?」と聞かれたんですが、一般的にハーフやマラソンの選手は400mのインターバルはそんなにやりませんからね。ぼくがもうひとつ大事にしたのは、新谷がそれまで続けてきたことを崩さないということ。いきなり、ぼくが考えるハーフの練習を新谷に見せるのではなく、新谷がこれまでやってきた延長線上にどうやってメニューを組むのか?ということを考えました。新谷がこれまでの練習の中で「400mのインターバル」はかなり重要視していることはわかっていましたから。これをどうアレンジしたら、ハーフ仕様にもっていけるんだろう?というアプローチで考えたのです。どの選手にもいえますが、レースペースとレースペースよりも速い動きを最適化、つまり、身体に染み込ませるかということが大事だと思ってます。インターバルのメニューではリカバリーはジョグじゃなく、その場で休むというやり方をとっているのも、そのため。新谷のメニューでもリカバリー30秒とか45秒とか、リカバリーをジョグ(距離)ではなく、秒でとっているんです。リカバリーの間は新谷はジョグもせずに、”ゴール地点を駆け抜けて、スタートに戻ってきて、一休みして、また走る”。これは100mジョグを30秒でつなぐよりは、絶対楽なんです。

ーーそんなもんなんですか?なんか乳酸がギューッとでてきそうですが。

新谷
ジョグつなぎより全然楽です。200mジョグを1分以内でつなぐよりは、30秒立ち止まってスタートしたほうが、全然楽なんです。

横田
そうすることによって74秒のペースにフォーカスできるんです。ジョグつなぎだと、リカバリーとはいえ、遅すぎず、速すぎず、ジョグにも気をかける必要がでてきます。そうすると、どうしても次に74秒ペースに戻すのが難しくなる。だから、その場でリカバリーをとることを大事にしています。もうひとつのメリットは比較がしやすいこと。海外では変化走が主流で。400mをレースペースで走り、その後、200mジョグをゆっくりではなく、速く走る。キロ4だと、200mが48秒くらい。一般的にはゆっくり200mを60秒くらいでリカバリーをとるんですけど、そうじゃなくて、48秒で走って、またレースペースで走る。そのときの評価を合計タイムで見るんですよ。例えば400mを5本走るとして、リカバリーを200m入れると、トータルで3000mを走ることになる。そうすると3000mの合計タイムで見るんです。これだと、リカバリーを速くして、400mを遅くしたほうが合計タイムは速くでるんですよ。

ーーわっ。そうだ。数字のマジックだ。

横田
だからごまかせちゃう。もちろん生理学的にアプローチしたいときもあるので、ぼくらもやることはありますし、新谷のメニューに入れることも当然あります。1600mを走ったあとに、そのまま3200mをそこそこのペースで走るというメニューもいれてます。それよりもレースペースの走りをきちんと整えることにぼくらはフォーカスしているので、400mのインターバルのリカバリーはその場でとるということが多かった印象があります。

ーーなるほど!これは効率的というか、横田さんらしいですね。

新谷
そもそも立ち止まってからスタートする。その場でリカバリーをするのは今回がはじめてやった試みです。それまでは200mジョグでつないでいましたから。その場でリカバリーをとると、脚のリズムが崩れてきつくなりそうなイメージがありました。私にとって400mのインターバルは大事にしていることで、その都度、本気で望んでいるんです。チームメイトの蘭ちゃん(卜部蘭選手)がそういうメニューでやってるのをみてて、ジョグつなぎと比べて、後半の走りが崩れないイメージがあったんです。ジョグつなぎって、ジョグもある程度、力を出さないといけないんです。200mを1分でつなごうとすると、つなぎの後半で形が崩れちゃう。

ーーそろそろ始まるぞ、とバタバタしちゃう。

新谷
だから、当初は大丈夫かな?とは思いましたが、今回、その場リカバリーを取り入れてやってみたら、一定のリズムで走れる上に、やっぱり最後まで崩れない。私もペースを極力、崩したくないので。これは几帳面な性格からきていることでもあるんですが、ビルドアップ走なんかにしても、キロ4分ペースからスタートして、次が3分50秒にペースがあがったら、その次は絶対、3分50秒より1秒でも速く走りたいんですよ。上げ下げするというのは、私の中ではいいイメージがなくて。これだと練習になっていない感じがして、ビルドアップなら、ずっと上げていったほうが力になる。もともと、上げたり、下げたりというのもしたくない性格だから、横田さんの練習は私の性格にもあってたのかな。と思います。

ーー一度、アクセルを踏んだら、戻したくないタイプだ。もしくはそのペースで巡航させておきたいという。

新谷
そうなんですよ。

横田
リカバリーをジョグでとるような、乳酸をちゃんと使う動き続ける良さもあるんですけど。リズムというのが新谷のキーワードなので、そのリズムがもつ本数。つまり、ハーフでも、そのリズムを維持するには、本数をしっかり取り組まなければならない。そうするとジョグつなぎだと、脚への負担も大きいと考えたんです。

ーーそうか。リカバリーとはいえ、余計に距離を踏むことで”壊したくない”と考えたんですね。

横田
だから、その場でリカバリーをとるということは新谷にとっては効果的だったと思います。

ーーこれ、やってみたい大学はあるんじゃないでしょうか?つまり、トラックと箱根駅伝を両立させるというテーマじゃないですか。トラックとロードがもっとシームレスになっていく糸口になるかもしれません。

横田
延長線上に置くかということが大事なんですが、個別でみないと無理だなとも思います。チームとして取り組んでいたら、トラックシーズンにやっていることと似たよう内容だと思います。これは新谷にあっていただけであって、他の選手にも当てはまるかどうかはやってみないとわからないですね。

ーー一見、このメニューはTwoLapsのノウハウのように見えるかもしれないけど、これは新谷さんに最適化されたメニューであって、同じことを田母神選手が箱根を目指すときに良かったというわけではないんですね。

横田
田母神だとアプローチが違うんじゃないかな。彼だったら、新谷とは逆に変化走をやらせると思います。1時間5分動き続ける練習からさせますね。

新谷
うふふっ。

横田
1時間5分トータルで身体を動かし続けるメニューをやります。新谷はその土台があったので。ジョグとかも質が高いですし、練習見てても、その能力は長けているなというのはわかるので。そして、そもそも目的が違いますよね。田母神の場合はハーフを走れる身体にするところからはじめないと。それなりに土壌があるなかで、そこにどうやって肉付けしていくか?という考え方ですから。

ーー新谷さんのように朝ジョグから駒澤大学の集団走と同等、もしくは速いくらいのペースで走っているのとは土台が違いますよね。

横田
新谷は箱根を走る選手のメニューでも伸びたかもしれないですけど、その後、5000mでもタイムが出たか?というと違うでしょう。5000mや10000mの領域のトレーニングをしっかりする。そこが今回のポイントです。

ーーそれが400m74秒なんですね。ここまで聞くと無敵じゃないですか。

横田
74秒から70秒まであがるペースですね。他にはトレーニングの頻度が高いというコメントも結構ありました。

文章・写真:西本武司 @EKIDEN_News

アスリートのキャリアと投資理論

前回書いたイノベーションの記事が好評だったので、経営や金融といった切り口からチームやアスリートにスポットをあてていくシリーズを始めたいと思います。気まぐれなので今回で終了するかもしれません(笑)今日はアスリートのキャリアを投資理論の基本である分散投資いう観点から話をしたいと思います。主に若い方向けに書いているという前提のもとに読んでいただけると幸いです。

分散投資ってなんだ

この辺は説明は面倒なのでwikipediaを引用しますね。
“分散投資(ぶんさんとうし、diversification)とは、投資金額を分散していくつかのものに投資する手法である。一つのものに投資するとなんらかの要因で投資対象の価値が下落した場合は投資資金がほとんどなくなってしまうので、そうしたリスクを軽減するために行われる投資手法である。”(wikipediaより引用)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%86%E6%95%A3%E6%8A%95%E8%B3%87

つまり、一個のものに集中して投資をすると、それがだめになったときに資産が一気に減ってしまいますよ。ということです。例えば、ある一社だけの株に現金全てをつぎ込んでいたのにその会社が倒産してしまったらどうでしょうか。そういったリスクを減らすために、いろんな種類の資産(株、債権、投資信託など)、世界のいろんな地域の資産に時間差で投資をしていくことで、リスクを減らし、期待するリターンを得る確率を高めます。

Don’t Put All your Eggs in One Basket( 卵を全部一つのかごに入れるな)

これは分散投資に関する有名な言葉です。自分の持っている卵を1つのカゴにいれるとその卵を落とした時にその卵が全て割れてしまいます。カゴをいくつか用意して運ぶことで割れるリスクを抑えることができます。卵が仮に1つ割れてしまったとしても、他の卵が残り、残った卵が孵化をして鶏になりまた卵をうむ可能性があるのです。これが分散投資の一番重要な点です。そしてもう1つ大事なのは“卵 “という点です。卵はいろんな形となって長期的に価値を生み続ける可能性が高いです。ニワトリになって卵を産んだり、形を変えてエッグベネディクトになったりします。例えば、バスケットに入れるのが卵ではなく目玉焼きだったらどうでしょうか。目玉焼きは食べたら終わりです。

↑僕がつくった図なので雑ですが許してください(笑)

競技だけに集中しろ=人生のリスクをとれ

幸い僕は言われたことないのですが、「余計なことしないで競技に集中しろ。」という指導者がいると聞きます。それは、一個のバスケットにたくさんの卵を入れまくれ。と言っているのと同じです。つまり、カゴを落としたら(競技で失敗したら)、また0からなにかをつくりあげなければいけないのです。同じように、アスリートが「僕(私)は、競技だけに集中したい」と練習に集中し、空いた時間の多くを、価値のうまないことに費やすのは、一つのカゴに卵をいれていることと同じことになります。競技がだめになったとき、、、。そのあとはご想像にお任せします。それがどういうことかは、ここまで読んでくださればよくわかると思います。
一方で多くのリスクを取らなければ大きなリターンを得られないと言うのもまた真実です。そういった戦略をとりたいときは周りにいる人を分散させることでリスクを減らすことができると思います。陸上界、スポーツ界だけでない人と付き合うことも最低限のリスク回避手段の1つです。(危ない人と付き合うとリスクが増すので気をつけてください笑)もしくは分散してる人を近くに置くこともリスク回避手段の1つです。ぼくは選手がなるべくリスクをとれるように、自分がなるべく活動を分散することで選手のリスクを少しでも減らしたいと考えています。けど最近はもっと選手のコーチングを密にしたいなーと思ってます。

マロンがとった分散投資

↑僕がつくった図なので雑ですが許してください(笑)

競技だけに集中しろ=人生のリスクをとれ

幸い僕は言われたことないのですが、「余計なことしないで競技に集中しろ。」という指導者がいると聞きます。それは、一個のバスケットにたくさんの卵を入れまくれ。と言っているのと同じです。つまり、カゴを落としたら(競技で失敗したら)、また0からなにかをつくりあげなければいけないのです。同じように、アスリートが「僕(私)は、競技だけに集中したい」と練習に集中し、空いた時間の多くを、価値のうまないことに費やすのは、一つのカゴに卵をいれていることと同じことになります。競技がだめになったとき、、、。そのあとはご想像にお任せします。それがどういうことかは、ここまで読んでくださればよくわかると思います。
一方で多くのリスクを取らなければ大きなリターンを得られないと言うのもまた真実です。そういった戦略をとりたいときは周りにいる人を分散させることでリスクを減らすことができると思います。陸上界、スポーツ界だけでない人と付き合うことも最低限のリスク回避手段の1つです。(危ない人と付き合うとリスクが増すので気をつけてください笑)もしくは分散してる人を近くに置くこともリスク回避手段の1つです。ぼくは選手がなるべくリスクをとれるように、自分がなるべく活動を分散することで選手のリスクを少しでも減らしたいと考えています。けど最近はもっと選手のコーチングを密にしたいなーと思ってます。

マロンがとった分散投資

TWOLAPSにマロンという可愛い名前をした、いかつい見た目のストレングスコーチがいます。彼は、平成国際大学を卒業したあと自衛隊体育学校で800mの選手として活動をしていました。1分48秒台のタイムをもっていましたが、お世辞にも実業団で活躍したとは言える実績ではありません。しかし彼は、いま、有名実業団もスタッフとして雇いたい!とオファーがくるようなキャリアを28才で築きました。彼は自衛隊体育学校のときに僕とトレーニングパートナーでした。彼はセネガルとのハーフですが、津軽弁と標準語しか話せませんでした。そんな彼は僕が英語で話しているのを見て、突然英語の勉強を始めます。ORANGEのスペルさえ怪しかったのですが、競技以外の時間のリソースのほとんどを英語の学習にあてました。そして25才で引退した後すぐにオーストラリアへストレングス&コンディショニングの勉強に旅立ちます。なぜならそういったスキルをもった人材が必要になる陸上界になると僕が彼に伝えていたからです。残念ながら実業団経験者で英語を操れる人間はごくわずかです。裏を返せばそれができれば強みになる。恥ずかしながら陸上界はそんなもんです。彼はアドバイスを素直に受けいれ、

競技実績  英語  ストレングトレーニング

という3つのバスケットに卵を入れまくったことでセカンドキャリアでJump Start に成功しました。オーストラリア人の可愛い彼女というおまけつきです。いまでは僕より英語が上手で海外遠征では超頼もしいです。アスリートにとって、自分にとっての”卵”と”カゴ”がなんなのかを考えることは非常に大事です。それを自分だけで考えるのではなく人にアドバイスを求めたり、人の意見に耳を傾ける素直さも大事だということをマロンから学べました。僕も自分の人生の大事な決断はなるべく陸上界から遠い人に相談するようにしています。

ちなみにマロンの競技の方は、僕のタイム設定で練習をしていたので早くなりませんでした(笑)

まとめ

・自分にとっての価値の生む卵とバスケットはなにかを見極めよう

・なるべくリソースを分散させてリスクを減らそう

・リスクをとりたかったら分散する仲間を手に入れよう

イノベーションは引き算から始めよう

序章


僕はSFCで経営学を主に学び、卒業後にアメリカの公認会計士の資格をとって、いまはフロリダ大学大学院のスポーツマネジメント修士を専攻しています。(さっさと卒業しろよというツッコミはお控えください)

何が言いたいのかと言うと、僕はコーチングや運動生理学は学んだことがなく、組織(チーム)のマネジメントも個人(選手)のコーチングも、体育学からではなく経営学の視点から考えてきました。ビジネスで使われるフレームワークは競技にいかせるし、経営学の理論は組織や人をマネジメントする際に有用だなと、学生の頃から感覚的に思ってきました

僕の思考や生き方に特に大きな影響を与えてくださったのは
大学の2年間ゼミでお世話になった上山信一教授です
マッキンゼーの共同経営者として企業や行政の改革に従事されてきた方です
その先生のもとで人生一厳しくご指導をいただいたことで
上山先生の改革や変革を起こす血が少しでも僕に流れていると信じております

今日は経営学の視点からTWOLAPSを紹介したいと思います

イノベーションは引き算からはじめる

いま僕のメンターをしてくださっている早稲田大学ビジネススクールの長谷川先生は

イノベーションは機能の引き算からはじめよう

とよくおっしゃいます

事例をあげてみましょう。スティーブ・ジョブスは一度アップルを去るものの12年の時を経て同社に復帰を果たします。彼が戻ってきたときのAppleは多様な製品とサービスを販売しようとし苦戦をしていました。そんな中、彼は300以上あった製品を10製品にまで一気に減らし経営資源を集中させました。削る思考は製品開発にも現れます。開発者がつけた機能の多くのお客さんにとって不要だとし、ユーザー視点で無駄な機能を徹底的に削っていきます。

同じようにフィットネス業界で急成長を遂げているカーブスは、フィットネス業界に必ず必要とされる、更衣室、シャワー、プール、男性客、男性スタッフという機能を削りいままでフィットネスジムに通いずらかった女性たちのニーズを捉えることに成功しました。

TWOLAPSが削ったもの

それと同じ発想で陸上の長距離界で当たり前に存在する機能を削りました

削る際に大事にしたのは

・アスリート(ユーザー)視点で無駄な機能
・コーチ(企業)が重要性を論理的に説明できないもの

という視点です。削ったのは以下の機能です、

・集合しての朝練
→好きな時間に起きてやればいい。だいたい勝手にやる。やらないのは田母神くらい。
・集合
→大事なことは選手のアップ中に個別に話す。自分の都合にあわせて練習に来れば良い。
・寮
→そもそもお金がないのでつくれない。
・日誌
→話すほうが多くの情報を引き出せるので不要。選手が自分のためにやるのであれば勝手にやればいい。
・体重管理
→嘘つくやつがいるので不要。というか走れてればいいので不要。
・団体行動
→無駄な時間が多いので不要。
・練習参加
→一人でできるなら不要。自由にしても勝手にくる。来ないのは田母神くらい。

つまり、管理を目的とするものの多くを削りました。管理や外的な動機付けが選手の行動規範の多くを占めている場合、自律した選手を育てるのは非常に難しいです。この辺はSelf Determination Theory という有名な論文を読んでいただくのが良いかと思います。
https://en.wikipedia.org/wiki/Self-determination_theory

外的な動機付けではなく内的な動機付けによって行動できる組織環境をつくることをチーム作りの最優先事項とし、不必要な“管理”という概念を排除することによってそれを実現させました。

そしてなにかを削るということでそれ以外に資源を集中させることができます。スティーブ・ジョブスは製品数を絞ることで1つの製品の開発期間を短くすることに成功しました。そうすることで他社よりも早く新しい機能を備えた商品を発表することができ競争優位につながりました。

TWOLAPSでは、管理を排除する代わりに他のことに資源(ヒト・モノ・カネ・時間)を費やすことにしました。

・動きづくり
・ストレングストレーニング
・リハビリテーション
・勉強会
・オフコミュニケーション

イノベーションは新しい技術だけを呼ぶのではなく、不要な機能を削りプロセスを変えることでも起こすことができます。

結果が出ずに既に1つチームをつぶしている人間がえらそうに言うのもなんですが、僕はこの組織づくりが正しいと思って前に進めています。強調したいのはそれは他の組織を否定するものではまったくないということです。いろんな組織があってそれに賛同する人がそこに集まればいいと思います。いろんな組織ができればそれを選ぶ側(選手)にもリテラシーが求められるようになります。

僕はこの組織づくりに賛同してくださる方達と新しい価値を生み出したいと思っています。コアとなる価値観を共有した仲間とだからこそ激しいトレーニングや過酷な状況を乗り越えられるのだと思います。組織づくりはそのための手段でしかないのです。これからも不要そうなものは容赦無く削っていきます。

最後に新谷さんの名言を紹介して今回のnoteを終わりたいと思います。

私は整理整頓が得意です。物も、人間関係も。

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